2026/5/29
静岡に「くれたけイン」が多いのはなぜ?料亭から始まったホスピタリティの秘密

静岡にはやたらと「くれたけイン」が多い。静岡のホテルチェーンなのか?詳しく知りたい。
キュリオす
静岡県内で「くれたけイン」の看板をよく見かける理由を探る。料亭旅館から始まった呉竹荘グループの歴史と、地域特性に根差した事業戦略、付加価値の高いサービスが、静岡での店舗網拡大の背景にあることを紹介する。
静岡県内を車で移動したり、あるいは主要駅に降り立ったりすると、頻繁にその看板を目にするホテルチェーンがある。「くれたけイン」である。特に東海道沿いの都市部やインターチェンジ付近では、他の全国チェーンと並び、あるいはそれ以上にその数が多いように感じられる。一見すると、どこにでもあるビジネスホテルの一つに見えるが、これほどまでに静岡県内で存在感を放つ背景には何があるのか。静岡にこれほど「くれたけイン」が多いのは、単なる偶然なのだろうか、それともこの地ならではの必然が隠されているのだろうか。
「くれたけイン」を運営する呉竹荘グループの歴史は、今からおよそ80年前に遡る。創業は1948年(昭和23年)10月、静岡県浜松市で料亭旅館として始まったことに端を発するのだ。法人化されたのは1950年(昭和25年)7月のことである。当初は「呉竹荘」の名で、結婚式場や宴会場を核とした事業を展開していた。
ホテル事業への本格的な進出は、2000年代に入ってから顕著になる。料亭旅館としての伝統を背景に、宿泊に特化したビジネスホテル「くれたけイン」ブランドを立ち上げたのだ。この転換期以降、呉竹荘グループは既存ホテルの経営権を継承する形でグループ傘下の施設数を増やし、経営規模を拡大させていく。例えば、2005年にはヤマハ発動機から「マリーナヴィラ」の事業を移管し、2009年には「ハミルトンホテル」の事業を継承するなど、その手法は多岐にわたる。2014年には金沢国際ホテルの事業も継承しており、積極的な事業展開が見て取れる。料亭で培われた「おもてなしの心」をビジネスホテルという形で再構築し、宿泊客の「明日の活力を生み出す場所」を提供することをコンセプトに掲げているのが特徴だ。
くれたけインが静岡県内でこれほど多数展開している背景には、その事業戦略と静岡県の地理的・経済的特性が深く関わっている。まず、本社が浜松市にあるという「地元」である点は大きい。創業以来、地域に根差した事業展開を続けてきた歴史が、現在の店舗網の礎となっている。
くれたけインのビジネスホテルは、比較的リーズナブルな料金で、必要最低限かつ十分なサービスを提供する「宿泊特化型」を特徴としている。無料の朝食バイキングや、時間限定の無料ドリンクサービス(ハッピーアワー)、そして多くの店舗に設けられた男女別の大浴場やサウナといった付加価値は、宿泊客にとって魅力的な要素である。特にビジネス利用の顧客にとっては、出張先での費用を抑えつつ、一日の疲れを癒せる大浴場は大きなメリットとなるだろう。
静岡県は東西に長く、東海道という主要な交通路が貫いている。このため、県内各地に点在する工業団地や企業への出張需要が常に存在する。また、観光地も富士山周辺、伊豆、浜名湖など多岐にわたり、広範囲にわたる移動を伴う旅行者も多い。くれたけインは、こうしたビジネス客や観光客の多様なニーズに応えるべく、主要駅前だけでなく、インターチェンジ付近など、利便性の高い立地に積極的に出店してきた。既存施設の買収・継承による展開は、ゼロからの建設に比べて初期投資を抑え、迅速な店舗網拡大を可能にしたと考えられる。
くれたけインの静岡県における集中展開は、全国規模で画一的なブランド戦略をとる大手チェーンとは異なるアプローチを示している。例えば、「東横イン」や「アパホテル」といった大手ビジネスホテルチェーンは、主要都市の駅前を中心に全国規模で均一なサービスを提供し、ブランド認知度を高めることで集客を図る。これに対し、くれたけインは、発祥の地である静岡県を基盤に、地域に密着した店舗展開を進めてきた。
そのサービス内容にも地域性が表れる。多くのビジネスホテルが無料朝食を提供する中で、くれたけインは「料亭発祥の朝食」を謳い、地元の食材を取り入れた手作りの朝食を提供している。また、無料のハッピーアワーや大浴場は、宿泊特化型ホテルとしては充実したサービスであり、単なる宿泊機能だけでなく、滞在中のリラックスや満足度向上を重視する姿勢が見える。これは、画一的な効率性を追求する大手チェーンとは一線を画し、地域ごとの宿泊客のニーズや期待に応えようとする試みと言えるだろう。こうしたきめ細やかなサービスは、特に地域内のビジネス客や、車での移動が多いファミリー層にとって、リピート利用を促す要因となっている可能性が高い。全国展開を進める中でも、静岡県内でのサービスレベルや地域の特色を意識した展開は、他のチェーンとの差別化を図る上で重要な戦略であった。
現在、呉竹荘グループは静岡県浜松市に本社を置き、静岡県内を中心に、北海道から広島まで全国12都道府県、さらにはベトナム、インドネシア、タイといった海外にもホテルを展開している。静岡県内だけでも、浜松市内に複数の店舗を構えるほか、掛川、磐田、御前崎、焼津、菊川、富士、富士宮、静岡市といった広範囲にわたって「くれたけイン」ブランドのホテルが存在する。
これらのホテルは、JR静岡駅から徒歩圏内の「くれたけインプレミアム静岡駅前」や「くれたけインプレミアム静岡アネックス」のように駅からのアクセスが良い立地にあるものもあれば、「くれたけイン御殿場インター」のように高速道路のインターチェンジ近くに位置するものもある。多様な立地は、ビジネス客から観光客、さらには家族連れまで、幅広い客層のニーズに対応するための戦略だ。各店舗では、「明日の活力を生み出す場所」というコンセプトのもと、無料の朝食やハッピーアワー、大浴場などのサービスが提供され続けている。また、宿泊事業だけでなく、ブライダル事業、レストラン事業、さらには保育園事業や公共施設の指定管理など、多角的な事業展開を行っており、地域社会におけるその存在感は宿泊業に留まらない。
静岡県内に「くれたけイン」が多数存在する理由は、単に本社が静岡にあるという事実だけに帰結するものではない。それは、料亭旅館から始まった「呉竹荘」が、地域の特性と市場のニーズを深く理解し、それに応じた事業戦略を長年にわたって展開してきた結果と言えるだろう。東西に長く多様な経済活動を持つ静岡県において、手頃な価格設定と、無料朝食やハッピーアワー、大浴場といった付加価値の高いサービスは、ビジネス客と観光客双方にとって魅力的な選択肢となった。
大手チェーンが全国一律の展開を目指す中で、くれたけインは地元静岡での基盤を固めつつ、既存施設の買収や継承を巧みに活用して店舗網を拡大してきた。この戦略は、新規開発のリスクを抑えつつ、地域の宿泊需要を確実に捉えることに繋がった。結果として、静岡県という特定の地域において、他の追随を許さないほどの存在感を築き上げたのである。くれたけインの事例は、地域に深く根差した企業が、その地の特性と顧客心理を捉えることで、全国的な広がりを見せつつも、特定の地域で確固たる地位を築き得ることを示している。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。
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